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ふゆから、くるる。 感想 20年前にCROSS†CHANNELをプレイしたおじさんが2022年の今に祈るとしたら

最初にプレイしたときは、少しつまんないかなーとか思ったし、あらためて見返すとイマイチだったところもある。どうやらそう思ったのは俺だけではなく、ネットで同様の感想も沢山読んだ。「ふゆから、くるる。 感想」「ふゆから、くるる。 批評」などで検索して20件くらい感想サイトを巡った。四季の資料集でCROSS†CHANNELとの関連とか、木緒なちとの縁、とか、はるまで、くるるの製作の話を読んだほうが良いこと、補陀落渡海との関連やふゆくる特設サイトへのリンクを貼ってくれていた人がいて、参考になった。CROSS†CHANNELとの関連について言及されたブログを読まなかったら、四季の資料集は読まなかったかもしれない。感謝。

 

CROSS†CHANNELの関連

 

補陀落渡海へのリンクが公式サイト「よくわかるふゆくる」にある旨の感想

 

ちなみに、「ふゆから、くるる。 CROSS†CHANNEL」で検索すると上記のブログ1件しかヒットしないが、その下に「はるまで、くるる。 CROSS†CHANNEL」の検索結果がたくさん出てきた。「CROSS†CHANNELへのアンサーストーリー」とかいう文字列も見えた。

 

 

 

 

流れのおさらい

シナリオはかなりストレート。
シーンをざっと振り返ると以下の流れ。

  1. 雲母舞花の祈り、チェックワンツー
  2. 空丘島朝日としおん後継機の出会い
  3. 雲母舞花の宇賀島ユカリによる初期化
  4. 空丘夕陽の世代に戻り、空丘夕陽を男性化しての名探偵編
  5. 子作り編:以下3組の交合
    菊間塔子と星都チエミ
    熾火澱と宇賀島ユカリ
    水名とりねこと月角島ヴィカ
  6. 子供世代・孫世代の祈りと補陀落山への到着・救済

 

キャラクターのおさらい

空丘夕陽

月角島ヴィカ、宇賀島ユカリ、宇賀島ベルリンに試される。男を集団に混ぜても大丈夫かの対象として。「男とは? 女とは?」というのがテーマの一つと聞いているが、あまりそのテーマを直接的には描いていない。ただし、変化についての畏れ、それを受け入れる勇気、そして死と子孫とそれらの幸せへの祈りははっきりと描かれている。空丘夕陽は男になることを受け入れた、最初の少女。明確に死を意識したわけでの決断ではないが、その変化を受け入れるという点で主人公としての、群像劇なので主要登場人物、というべきだが、の一人だと思う。そして、その漠然とした決意は、名探偵編のクライマックスで、男になること、子孫を作ることがカーネーションシステムからの離脱と将来的な死を孕むことを伝えられてもなお、霜雪しほんの意志を引き継いで改めて決められる。その時点で空丘夕陽の役割は終わる。だからこそ、以降の空丘夕陽のエロシーンは無い。


霜雪しほん

空丘夕陽を男に変化させた少女。少女だけの均質な集団に変化をもたらして、そして、空丘夕陽に「死」を決意させた少女。雲母舞花の後継なのかも。

 

水名とりねこ

霜雪しほんに、と言うより、空丘夕陽のパートナーになりそびれた助手。ただ、描写からすると、男体化した夕陽に惹かれたようにも見える。最終的には月角島ヴィカと孕ませセックスをして子孫を残す。マゾアナル1号。生真面目という点ではロリ会長と近いのだが、愛するパートナーと結ばれなかったという点で屈折が残る。月角島ヴィカも、蔦岡島が好きだったんだっけ? だから二人の子作りは、短絡的には妥協の産物。その二人のエロシーンの中だったと思うけれど、それでも、二人が子孫を作ることは、それぞれのパートナーが望んだことでもある。ある意味で、夕陽と同じ。夕陽もしほんの思いを継いだ。とりねこも夕陽の思いを継いで子孫を残すことを選んだ。とりねこが男体化したのは、夕陽に選ばれないことから逃げるため。だけどその逃避は、結果として月角島ヴィカの共感を誘って性交へと繋がる。

 

宇賀島ユカリ

宇賀島ベルリンと対を成す少女。だれよりも繊細であり、戦闘艦としての役割を苦悩しながら全うする。そして、孕むことを受け入れる。薔薇園で薔薇を育てながら、交雑により野生種を生み出すことを目標としていた。男を受け入れることを初期から認めていたキャラクター。マゾアナル二号。

 

星都チエミ

月角島ヴィカが影のリーダーだとすると、チエミは表のリーダー。生徒会長という役回り。孕むことを受け入れた少女の一人。規律を遵守し、やはり集団を存続させるためなら変化を甘んじて受け入れることのできる少女。その献身性に菊間塔子も惹かれた。

 

菊間塔子

ある意味では主人公となってもよかった登場人物。四季の資料集でもそんなコメントがあったような。名探偵をできる程度には頭の回転が早く、また、チエミのために男になることを受け入れた少女。しほん、及びヴィカの殺人についての背景をある程度推測していたにも関わらず、チエミを守るために傍観者に徹した。主体性が無いために夕陽の役割は担わなかったが、もし殺害されたのがチエミだったのなら、夕陽のように少女たちの集団を変化する鍵となったと思う。飄々とした態度の裏にチエミへの深い愛情をにじませる。ビジュアルも含めて魅力的なキャラクター。マゾアナル候補だったのだが、確かアナルプレイ担当ではなかったと思う。

 

熾火澱

男になるという選択を下した点では夕陽に近い。殺人鬼。はるくる、なつくる、あきくるでも居た「無自覚な殺人鬼」。集団を維持するための戦闘艦なのだが、そして、宇賀島ユカリがその通りに任務として不良品となった少女たちを処理しているのに対して、心から殺人を志向して嗜好する。男になる理由としては、たしかユカリを孕ませたかったから、だったと思う。もともと壊れかけの性格のため、子孫への祈りというよりかは個人的な理由から男体化したようだ。夕陽もしほんへの思いという個人的な理由から男体化しているが、最終的には集団を維持するという目的に同調した。その点で、最後まで個人的な衝動に忠実な登場人物。

 

月角島ヴィカ

そして孕むことを決意して、子孫のために犠牲になることを決意した女。蔦岡島の最後を利用した実験を行った。最後まで男は不要だと考えていたけれど、それでも、
バッドエンドでは、男を混ぜた不純な集団となるくらいなら、少女のみの純粋な群れとして滅びを迎える。
「がっ」の言葉を呪いと祈り、その両方の意味で呟きながら。*1

 

ここまで書いていて気づいたけれど、宇賀島ベルリンが居ないな。あくまで宇賀島ユカリの影としてしか描かれていないからか。そうか。たしかに、終盤の子作りエッチシーンではベルリンは出て来ない。



20年前にCROSS†CHANNELをプレイしたおじさんが2022年の今に祈るとしたら

上記を踏まえて、ふゆから、くるる。を考え直してみると面白い。
すべてを祈りのチェスに収斂させた構成は見事。確かに、空丘夕陽とか月角島ヴィカとか菊間塔子とかの主人公格の人生とか過去、それに対する反省と変化を描くのが定石だし、なんなら月姫リメイクで遠野志貴がイマイチとか思ったのもそれだけど。エロゲーはヒロインの鬱屈を解消するように見せかけて、主人公の過去を救済するものだ、それが面白いのだ、と思っている。CROSS†CHANNELしかりCARNIVALしかり。

逆に言うと、ふゆから、くるる。では主人公、空丘夕陽の両親との確執も、その過去も描写されない。空丘夕陽はヤチマのよう。イーガンみたいなハードSF。物理実体の無い意識生命体、というと順列都市も近いかも。意識生命体には創造主たる神は居るけれど、親も子も無く、その生涯にはコピーと廃棄しかない。その世界から、子供と親、補陀落渡海で輪廻転生を擦っているように、死と継承と変化を作り出すことで子供が生まれ子孫が生まれいつかは救済される。まさにそれは祈り。

幸せでありますように。

蔦岡島が、月角島ヴィカに祈ったものと同じ。うわR.U.R.U.Rもそうじゃんね。R.U.R.U.Rのことははっきりと覚えてないけどめっちゃ泣いたことだけは覚えてる。

 

このような祈りは、自分の子供の成長、とかそういうものを意識するオッサン世代に刺さるんだと思う。チェスの終わり、チェスの解析も同じこと。*2

年齢だけではないけれど、親になって子供を持ったり、部下を持って仕事を依頼したりすると、全てを自分の決めた通りに進めることはできない。特に子供は、その最後まで親が生きているわけではないので、当然、自らの思う通りに育て上げることはできず、それこそ、子供についてはその幸福を祈ることしかできない。僕自身もそうだけれど、何かを他者へ仮託して、文字通り祈ることしかできないような経験をしていると、ふゆから、くるる。の祈りの切実さと、どうしようもなさが腹落ちした。僕自身は、もしこのゲームを十年前にプレイしていたら、「なんだこのクソゲー」とか思っただろうが、自分自身ではコントロールしきれないものがあることを理解した今だったら、そういう境地もあるのかと自然と思えた。シン・エヴァンゲリオンミサトさんと、そしてゲンドウの心情がわかるようになったのと、同じ理由かもしれない。
というわけで、たしかにジュヴナイル向けというか、十代くらいの可能性に溢れた青少年がプレイすると肩透かしを食らうだろうけれど、いろいろ人生の先が見えてきたオッサンがプレイすると、丁度よい塩梅でシナリオが省略されている。そう思う。

主人公を掘り下げなくても、群像劇としてしっかりメッセージが伝わる。月角島が孕んだのも、ユカリが孕んだのも。大きな出来事があってそれまでの生き方を変える、という大枠は一緒。また、探偵編とそれ以降で主人公格のキャラが変わっているトリッキーな作りとなっていることに注意したい。実は、探偵編までの主人公格の空丘夕陽は、それ以降は主要なシーンが無い。見せ場となるエロシーンが無いのがその証左。

 

田中ロミオ作品との対比

人類の意識、人類存続というテーマの点から考えると、CROSS†CHANNELよりは最果てのイマRewrite人類は衰退しましたとかの方が近い。CROSS†CHANNELは、やはりどこか個人的なところに話が収束していくような気がする。適応係数84の人外である黒須太一がどのように生きていくべきか、生きていくことができるのか、それは、必ずしも同じ空間に存在しなくても、遠く呼びかけるだけの通信だけで、「どこかに他者が居る」という希望を胸にするだけで生きていける、という話だった。最果てのイマRewrite、人退は主人公が人類の行く末を背負って苦悩するのが描かれていた。人退はちょっと記憶が曖昧だけど。いずれにしろ、人類という集団に対するキーワードが含まれているので関係はあると思う。
どうやっても田中ロミオの上記作品群は、「自分がどう生きるか」に焦点がある。人類というキーワードについても、あくまで主人公(太一、忍、瑚太朗、わたし)が背負う重圧の一つという位置づけ。集団の他者への献身、利他はどちらかというと、桜庭、章二、吉野に代表されている。群像劇という形を取っている以上、ふゆから、くるる。で描かれる以下の

  • 男になる変化を受け入れること
  • 孕むこと
  • それらが意味する、意識生命体としての死
  • カーネーションシステムからの解脱

という決意についても、複数人(ヴィカ、ユカリ、塔子)を通して印象的に描かれる。焦点をぼやかせた描き方になっている。その分、印象的な祈りのチェスのシーンで感動するわけだけれども。
さてと、ロミオ作品についてではなく、今回はふゆから、くるる。の感想なわけで。

 

 

テーマと設定がハマってる

祈り。多層的。霜雪しほんと空丘夕陽の祈り。雲母舞花の祈り。四季シリーズを通した祈り。人間は、意識は、利他的になれる。死を選ぶことができる。
ここがケン・リュウの「もののあはれ」に近い。「もののあはれ」でも碁をモチーフにして、盤面のすべての石に意味がある、捨てられる石も他の石を活かす役割がある、だから自己犠牲も厭わない、みたいなメタファーがあった。

祈りのチェスについては他の人達が沢山書いているけれど、やはり触れないわけにはいかない。夕陽が解析を進めて、終わったゲームとなったチェス。その一手一手を指しながら祈る行為は、読経にも似ている。補陀落渡海もあるし、仏教的なモチーフと近づけて考えると。ただし、祈るのは自らの救済ではなく、他の誰かの幸せ。幸せでありますように。子孫、そして、自らを作った創造主を含めての幸福を祈る。現実はチェスとは異なり二人零和有限確定完全情報ゲームではない。SFだと、ラプラスの悪魔のように、現実世界でさえも完全に予測することを可能とする存在が出てくる場合があるが、ふゆくるの場合にはそのような読み取り方は当てはまらない。あくまでも現実との対比として、チェスにより将来を祈るという哀切な行為が描かれる。

祈るという行為の全部。 全部、全部、全部、全部が無意味だとしたって、 祈りたいって気持ちは生まれてしまうんだ。
チェスはできますか! 普通のチェスじゃなくて祈りのチェス!
(空丘島朝日)

 

エロシーンを読め

エロシーンは、長くてだるいけど面白い。シーンが長いとか序盤と終盤に集中してて苦痛、みたいなレビューもあるけど。俺はこの長いエロシーンが一番良い形だと思う。
シーン中に他のキャラへの回想とか、死生観の変化が描かれている。特に後半の孕ませエッチはスキップ非推奨。エロゲーであるべき描き方だと思う。交雑による変化なのだから、それに関わる性交シーンも丁寧に描かれてしかるべき。
チエミと塔子の子作りは、最初の子作りエッチなこともあるけれど、感動的。変化におそれの残る塔子をチエミが許す。祈りましょう。

嬉しい。それは嘘じゃない。 だけど、悲しい。 --月角島に共感するわけじゃないけど、 チエミを妊娠させることで、 決定的にこの世界を終わらせることになってしまうのだ。
菊間塔子

塔子。 この意識はつらい旅をするために生まれてくるのだけど・・・・・・ でも、みんなそうなのかもしれない。 どんな場所でどんな風に生まれたって、 つらい旅をするために意識は生まれるのかもしれないわ だからこそ、本気で祈ってあげましょう。 幸せでありますように、って
星都チエミ





好きなところとかメモ

冒頭シーンと「生きてる人、いますか?」

冒頭シーンやり直した。実は空丘島朝日としほん二代目が会って祈りのチェスやるシーンだった。無線のチェックワンツーは、どう見ても「生きてる人、いますか?」じゃん。CROSS†CHANNELとの関連を聞かなったら気づかなかったけど。
忘れてたけど、この冒頭シーンに雲母舞花が立ち絵付きで出てた。

チェック! チェックワンツー! チェックワンツー! テステス。電波のテスト中。テステス。 私はキミに電波を発しています。聞こえますか?

挨拶ネタ

「こんにゃん、うんにゃん、にゃんにゃん」の挨拶って、蒼の彼方のフォーリズムで真白とかの挨拶こんなんじゃなかったけ? 調べたけど出てこなかった。なんか、真白とみさきちと明日香でわちゃわちゃってなかったっけ?

 

エピローグ付近の「ん」語尾はイマイチ

他の挨拶(だー?)とかも描写されてるし、時代の変化を描写するための語尾の変化「ん」はイマイチだった。せっかく最高に盛り上がったシーンなのに、セリフスキップしながら読む羽目になった。名前の継承は良かった。

 

狼犬の名前

ガッポリ、ヤットコ、など、狼犬の名前がかわいすぎる。

 

ヒロイン9人は凄い

特に菊間塔子がかわいい。メカクレ最高。スマガの日下部雨火以来のヒット。基本的にみんなかわいいけどしほんちゃんと熾火はビジュアルNG。なぜか渡辺僚一のピンク髪は毎回好きになれない。狂い方があってないのか。マゾアナルは毎回好き。
今回マゾアナル二人いなかったっけ? 幻覚? ユカリがマゾアナルっぽかったけどとりねこさんもマゾアナルだったね。

 

木緒なち

四季の資料集での木緒なちとの友情ストーリーを聞くと、ぼくたちのリメイクでの鹿苑寺 貫之が渡辺僚一に見えてきた。

 

あいかわらずのギャグのキレ

右を見ても左を見ても開放感。ダブル開放感。凄い! もし風景で絶頂に達するとしたらここだな!
空丘夕陽

そっ、その一回だけ! 一回だけで、いいですから! 一回!
(空丘さんは)いろんな人とエッチなことしてそうな顔してます
熾火澱

エッチなことをしたくなった時、 チエミって、肩がこったわ、って言いますもんね
菊間塔子

*1:トップ!2のノノリリもそうだけど、想いの強い言葉が崩れて継承されるのは好き。

*2:夕陽が完全に解析したとは言及されていないと思う。研究もそうだけど、一人では完結しない。巨人の肩に立つ、そういう言い方をして、先人の成果の上に少しずつ積み上げていくもの。それはまさに祈りと同じ構造。