six-9のブログ

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人退5読後メモ: 田中ロミオによる集団的いじめとゲームというメタ素材を用いたジャンルの超克への挑戦

改めて人類は衰退しました5を読んで、やっぱり田中ロミオはすごいなあ、と実感した。本作に出てくる素材は、スクールカーストなどの集団における差別(cf. 家族計画、Cross†Channel最果てのイマ、AURA)、ゲームに仮託したメタ性(おたく☆まっしぐら)、お茶会(最果てのイマ人類は衰退しました2巻)など、これまでの田中ロミオ作品に出てきたものばかり。なにか、これらの素材に思い入れでもあるのだろうか*1
余談だが、シリーズ5作目である本作で、妖精さんの正体とか、人類が衰退してしまった理由とかが朧気ながら見えてきたように感じられる。まだはっきりとは示されていないし、自分でもうまく言葉で表現できないけれど、なんとなくこんなもんかなあ、という感じで伝わってきた。これらから演繹されるメッセージは「愛だよ、メンズ(by AURA)」ということに収束しそうな気がする。

妖精さんが全く出てこない前半部を大人になる前の未成熟な人間性と現実の荒廃した社会に同期させて描いており、妖精さんの協力(共生?)を得た後のほのぼの学園生活描写は『衰退』後の人類、つまり今シリーズで継続的に描かれているファンタジー&コメディ世界を象徴している。人間的な成長、子供から大人、というテーマは、ロミオ作品ではあまり見られないような気がする。

なにしろ心を育てるのには時間がかかる。頭がよくなる方がずっと早い。(校長先生)
探索, p.69

知性の進化、というのは今シリーズにおいて通底しているモチーフ。人類は衰退しました2巻「人間さんの、じゃくにくきょうしょうく」においても「アルジャーノンに花束を」ネタの中で人は知性に見合った認識しかできない、という記述がある。最果てのイマでも、群体の描写でそれっぽいことを言っていたような。

「強くなりたい……」
 学舎で何かひとつを履修できるというなら、わたしはそれを学びたい。
 どんな境遇にも耐えることができれば、いつまでもひとりでいられるから。
 いや、そんな思いさえも、本音を隠す上蓋でしょう。
 本当の欲求、それは──
「ひとりは……いや……です」
秘密の汚部屋, p.82

これは「妖精さんの、ひみつのおちゃかい」においてシリアスな前半部とコメディタッチな後半部のちょうど継ぎ目にあたり、一番ストーリー的に盛り上がる場面の一節。ロミオ信者にはおなじみのモチーフ。一番近いのはC†Cかな。この場面で、妖精さんのつい消滅と共に、<わたし>は心の成長を経験する。

失ったのでしょうか。しかし喪失感はないのです。
むしろ、たくさんのものを手に入れた気がしていました。
悩んでいたことが小さく、ばからしいことに感じられました。
ひきょうな大人になりたい。ずぶとい大人になりたい。言いたいことを言う大人にも。
今なら、なれそうな気がしました。
秘密の汚部屋, p.84

「大人になりたい」という前向きなメッセージは、今までのロミオ作品では見られなかった気がする。C†Cとか、最果てのイマだと、大人になりたくないー、という退廃的で後ろ向きな姿勢だったような。AURAに至ると、それじゃダメだ、という立場になるけれど、『じゃあ……どうしたらいいの?』という良子の(そして俺の)素朴な疑問には、「ふたりなら、できる」みたいなラブコメ的レトリックで誤魔化していて、真摯な回答はなされない。この点で、人退はロミオの新しい立場を示している。*2
あと、友人Yが1巻だと地味に眼鏡っ娘設定だったのが伏線なのかどうなのか、気になる。

人前で感情を見せることを極端に嫌がる友人Yでさえ、壇上から戻ってきた時には眼鏡の奥で涙ぐんでいたほどです。
妖精さんたちの、ちきゅう, p. 15

最後に、壊れた(「にんげんさんいうところのたましい」が「ございませんゆえ」の)RYOBO230rの頭部から出てきた妖精さん、というのが、妖精さんという存在に対するヒントなのはわかるのだけど。うーん。どういうことか。旧人類文明が残した技術に使用されていた人工知能が寿命を迎えた姿、みたいな意味なのかな。


おたく☆まっしぐら」でやりきれなかったことをやってみた、という感じ。同時に、知性の進化をレベルアップに例えて描写している。<わたし>が最高レベルの描画レベルになった際に妖精さんたちが怪物のような外見に見えた点が、彼らの存在に対するヒントなのかあ。
ゲームというメタ世界に取り込まれて、残機を失いながら成長し、最後にゲーム世界を抜けて解決する、という点で、「おたく☆まっしぐら」っぽい。


つかれたのでこのへんで。タイトルと内容全然関係ないけど、気にしないで。でも、感じたのはタイトル通りのことなんだけどなあ。

人類は衰退しました 5 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました 5 (ガガガ文庫)

*1:ここらへん、丸戸史明の作品における家庭教師、受験、教師、共同住宅での生活、家柄の違いでのロミオとジュリエット的恋愛などのモチーフの頻出とつながる。作家というのは使い易い素材を使い回すものなのだろうか。

*2:それ故に、Rewriteでどんなメッセージが発せられるのかにより大きな期待が持たれる

*3:それにしても、各話タイトルで「妖精さん」「妖精さんたち」と、単数と複数が使い分けられているのが気になる。今作では、「妖精さんの、ひみつのおちゃかい」では、指しているのは<わたし>の記憶の中につい消滅した妖精さん(一人)で、「妖精さんたちの、いちにちいちじかん」では<わたし>と共にダンジョンを冒険する複数の妖精さん、ってことか?